やさしい税務会計ニュース
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文書作成日:2017/09/12
社会保険料削減スキームと税制

[相談]

 従業員30人の会社を経営している者です。数年前(おそらく平成26年ごろ)に参加した、あるコンサルティング会社主催のセミナーで、「従業員と社長の社会保険料削減スキーム」なるものを教えてもらいました。その内容は下記のとおりです。

1.従業員給与の社会保険料削減スキーム

  • 賞与を年間12回に分割支給する。ただし、支給額は均等ではない。
  • 支給金額の具体例…年間賞与60万円(30万円×2回)の従業員の場合、6月と12月にそれぞれ29万5千円ずつ(2か月計59万円)、残りの10か月は1,000円ずつ(10か月計1万円)、毎月の給与に上乗せして支給する。
  • 上記は社会保険料の「随時改定(月額変更)」のシステムの盲点を突いたもので、上記給与支給を実行したうえで定期的に社会保険上の月額変更手続を行えば、年間トータルでの社会保険料負担が減少する。

2.社長給与(役員報酬)の社会保険料削減スキーム

  • 毎月の給与を大きく減額させ、減額分をまとめて賞与として支給する。
  • 支給金額の具体例…月額報酬100万円(年額1,200万円)を支給する社長(他の常勤役員含む)について、月額報酬を10万円とし、残額の1,080万円を年1回の賞与(法人税法上の事前確定届出給与として所定の手続が必要)として支給する。
  • この場合、標準賞与額の上限(健康保険は年間累計額573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円)を超えるため、それを超える部分についての社会保険料負担が減少する。

 そのセミナーを受講した当時は従業員数が今より少なかった(5人程度)ため、社会保険手続きの煩雑さのわりに自社へのメリットが少ないと考えて実行しませんでした。しかし、その後会社が成長して従業員数が増加した結果、社会保険料負担が急激に増加したため、そのセミナーの内容を思い出した次第です。

 上記について、法人税法上・社会保険上その他の観点から意見をお聞かせください。


[回答]

1.従業員給与の社会保険料削減スキームについて

 ご相談の手法は、平成27年9月の厚生労働省通達改正により、平成27年10月1日より実質的に封じられています。このため、当時のセミナーの手法をそのまま実行された場合には、御社の社会保険料負担が減少する可能性は極めて低いと言えます。

2.社長給与の社会保険料負担削減スキームについて

 ご相談の場合、急激に増加した賞与額のみをもって、ただちに法人税法上の過大役員給与と指摘される可能性は低いと考えられます。しかし、税務上の他の観点およびその他の観点からはあまりおすすめできません。


[解説]

1.従業員給与の社会保険料削減スキームに対する国の対応

 社会保険で標準賞与額の対象となる賞与は、賃金、給料、俸給、賞与等の名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の回数で支給されるものです。
なお、年4回以上支給される賞与については、標準報酬月額(毎月の社会保険料の算定基礎となる金額)の対象となる報酬とされ、原則的には標準賞与額の対象となる賞与とはされません。

 この制度の盲点をついたのが、ご相談の社会保険料削減スキームです。数年前まで、一部の経営コンサルティング会社や社会保険労務士がセミナー等でその手法を大きく宣伝したことから、実際に導入した企業も少なからずあったようです。

 このような動きに対し、厚生労働省は「違法ではないが、制度の隙間を突いた保険料逃れである」との見解を示しました。そして、抜け道を防ぐため、平成27年9月に保険料算定のルールを見直し、日本年金機構や全国の健康保険組合などに通知したのです。

 その見直しにより、ご相談のように分割支給された賞与は標準賞与額には含まれないこととなり、原則的に賞与年間支給額を12で割った金額を標準報酬月額に加算して社会保険料が算出されることとなりました。この結果、社会保険料の計算対象となる給与総額は、原則的に賞与を分割支給した場合とそうでない場合とで変動がなくなったのです。

 よって、仮にご相談の手法を用いられたとしても、従業員給与についての社会保険料削減には効果がないこととなります。


2.社長給与(役員報酬)の社会保険料削減スキームに関する税務上・経営上の問題

(1)社会保険料削減効果の有無

 一方、これまで月額支給のみとしていた役員報酬を、月額と一定時期の賞与に区分して支給する場合には、スキームのとおり社会保険料削減には一定の効果があると言えます
これはスキームの内容にあるとおり、標準賞与額に上限が設定されているためです。よって、社会保険料削減という観点だけから言えば有効であると考えることができます。

※ただし、賞与を毎月分割支給してしまうと、先に述べた通達改正により効果は減少します。また、将来受け取る年金額が減少するリスクがあることもご承知ください。

(2)税務上の問題

 社会保険料削減スキームは、法人税法上の役員給与その他の税務に大きく関わるため、社会保険料削減の効果の有無だけでなく、税務面からの検討が必要不可欠です。

@法人税法上の過大役員給与の判定の問題

 法人税法上、毎月の役員給与(法人税法上の定期同額給与に該当するものに限ります。)および役員賞与(法人税法上の所定の要件を満たした事前確定届出給与に限ります。)については、「不相当に高額な場合」に該当する場合を除いて、法人税法上の損金の額として認められることとなります。

 この「不相当に高額な場合」の判定は、毎月の役員給与や役員賞与ごとに判定するのではなく、その合計額(役員退職給与は含みません。)で判定されると実務上は考えられています(嶋協著「税務形式基準における実務上の問題点について」東海税理士会研修会資料より)。

 よって、ご相談の1,080万円の役員賞与が法人税法上の形式基準(株主総会等で認められた金額の範囲内かどうか)および実質基準(同種同規模の法人と比較して著しく高額でないかどうか)に照らして相当な金額であれば、ただちに税務当局から指摘を受ける可能性は低いものと考えられます。

A他の税務上の問題

 しかし、毎月の役員給与を大きく減額してしまうと、他の税務上の観点からはデメリットが生じる可能性を考慮いただかなくてはなりません。具体的には、

  • 役員退職金支給額を最終功績倍率法で算出するとした場合の計算基礎となる最終役員報酬額が大きく減額されてしまうことで、税務上の役員退職金支給適正額が減少する可能性があること。
  • 社会保険料負担が減少した分、法人は損金の額が減少するため法人税負担が増加してしまう可能性があること。
  • 同じく、個人は社会保険料控除額が減少するため所得税負担が増加してしまう可能性があること。

などが考えられます。

(3)その他の問題

 税務上の観点だけでなく、経営上や個人の生活の観点からも注意が必要です。例えば、一定時期に多額の賞与を支給するため資金繰りが従前と大きく変動することや、月額給与を減額させたために、賞与が出るまでの間は毎月の生活費を個人の預貯金等で補う必要があることなどです。

(4)まとめ

 社会保険料負担は、人件費の増加に伴って増加するため、企業経営を圧迫することは言うまでもありません。ゆえに、今回のご相談者のお気持ちは非常によくわかります。

 しかし、安易に社会保険料負担削減だけを考えて行動してしまうと、上記のとおり様々な問題が生じる可能性があることにご留意いただきたいと思います。

 ですから、今回のご相談のように「画期的な提案があった」と思われた場合には、焦らず、まずは当事務所へご相談いただき、じっくりと考えたうえでご判断されることをおすすめいたします。

※なお、今回述べた厚生労働省の通達改正の内容を把握しておらず、賞与の分割支給スキームが非常に有効であるとしてホームページ等で紹介しているコンサルティング業者等があるようですので、この点は十分ご注意ください。


[根拠法令等]
法法34、法令70、健保法41、43、厚年法21、23、保保発0918第1号など


※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
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西岡公認会計士事務所

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